パリ条約による優先権とは


パリ条約による優先権とは、パリ条約の同盟国(第一国)において特許出願した者が、その特許出願の出願書類に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願する場合に、新規性、進歩性等の判断は、第一国出願の日(優先日)に出願されたのと同様の有利な取扱いを受けることができる権利をいいます。

これは、同一の発明について複数の国に特許出願をする場合、翻訳等の準備や各国ごとに異なる手続が必要となるため、特許出願等を同時に行うことは出願人にとってかなりの負担になりますので、出願人の負担を軽減するための制度として、 パリ優先権の制度を設けられています。

ここでは、審査基準(外部リンク)に基づいて、パリ条約による優先権について見て行きたいと思います。


パリ条約による優先権の主張の要件及び効果


パリ条約による優先権を主張することができる者


パリ条約による優先権を主張することができる者は、パリ条約の同盟国の国民 (同盟国の国民とみなされる者を含む。) であって、 パリ条約の同盟国に正規に特許出願をした者又はその承継人です。

日本出願ができる期間


パリ条約による優先権の主張を伴う日本出願ができる期間(優先期間)は、優先日から12月です。

優先権の主張の基礎とすることができる出願


優先権の主張の基礎とすることができる出願 は次のものである必要があります。
 ■ 正規の国内出願であること
 ■ 最初の出願であること


パリ条約による優先権の主張の効果


特許は先願主義のもと、早いもの勝ちの制度で、いかに早く出願日が認められるか非常に重要になります。

パリ優先権の効果は、「優先日から日本出願の出願日までの期間内にされた(i)他の出願、(ii)発明の公表又は実施若しくは(iii)その他の行為によって、後の出願は不利な取扱いを受けることはなく、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利を発生させない」ことにあります。

これにより、実体審査では、以下の規定の適用にあ たっては、優先日をその判断の基準となる日(基準日)として取り扱われ、後の出願か先の出願日に出願したのと同様の有利な効果が与えられます。

① 新規性(第29条第1項)
② 進歩性(第29条第2項)
③ 拡大先願(第29条の2本文)
④ 先願(第39条第1項から第4項まで)
⑤ 上記についての独立特許要件(第17条の2第6項において準用 する第126条第7項)


パリ条約による優先権の主張の効果についての判断


パリ条約による優先権の主張の効果についての判断


パリ優先権の主張の効果が認められるか否かの判断を必要とするのは、 優先日と日本出願の出願日との間に拒絶理由で引用する可能性のある先行技術等が発見された場合に限られますので、 審査官は、優先日と日本出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術等を発見した場合のみ、優先権の主張の効果の判断を行います。

判断の対象


審査官は、パリ条約による優先権の主張の効果について、原則として請求項 ごとに判断をします。

第一国出願の出願書類の全体に記載した事項との対比及び判断


日本出願の明細書、特許請求の範囲及び図面が第一国出願について補 正されたものである場合、その補正がされたことにより、 日本出願の請求項に係る発明が、新規事項の追加されたものとなる場合には、優先権の主張の効果が認められません。

部分優先又は複合優先


部分優先の取扱い


日本出願には、第一国出願に含まれていなかった構成部分が含まれる場合が あります。このような場合にも、第一国出願に含まれている構成部分 についてのみ、優先権を主張することが認めてられます。

複合優先の取扱い


複数の出願を基礎としてパリ条約による優先権を主張して出願することができます。

例えば、図のような複数の優先権を主張した出願がなされた場合、発明A1については出願日d1を、発明B1については出願日d2を基準日として新規性、進歩性等の判断がされます。



優先権の主張が累積された場合の取扱い


パリ条約による優先権の基礎とされた先の出願(第二の出願)が、その出願の前になされた出願(第一の出願)に基づく優先権の主張を伴っている場合は、 第二の出願の出願書類の全体に記載された事項のうち第一の出願の出願書類の全体に既に記載されている部分(優先権の主張が累積している部分)については優先権の主張の効果は認められなくなります。

例えば、下図のように出願Bが出願Aの優先権を主張し、日本出願が出願Bの優先権を主張して優先権の主張が累積されますと、発明A1の優先権が認められなくなり、発明A1の判断の基準日は日本出願日であるd3となります。




パリ条約による優先権の主張の効果についての判断の審査


パリ条約による優先権の主張の効果が認められないために、拒絶の理由が生じた場合には、審査官は、請求項を特定し、パリ条約による優先権の主張の効果が認められない旨及びその理由を記載した拒絶理由を出願人に通知します。

拒絶理由通知に対して、出願人から意見書が提出され、又は明細書、特許請求の範囲若し くは図面の補正がされた場合は、審査官は、改めてパリ条約による優先権の主張の効果の有無について判断します。

各種出願についての取扱い


パリ条約による優先権の主張を伴う出願の分割又は変更


パリ条約による優先権の主張を伴う日本出願の分割出願については、原出願に おいて主張したパリ条約による優先権が主張されたものとみなされます。

パリ条約の例による優先権


以下のいずれの優先権も、パリ条約の例により、その主張が 認められます。

①日本国民又はパリ条約の同盟国の国民が、世界貿易機関(WTO)の加盟国にお いてした出願に基づく優先権

② WTO 加盟国の国民が、パリ条約同盟国又は WTO 加盟国においてした出願に基づく優先権

③パリ条約同盟国又は WTO 加盟国のいずれにも該当しない国であって、 日本国と同一の条件により日本国民に対して優先権の主張を認めることとしており、かつ、特許庁長官が指定する国(特定国)の国民がその特定国においてした出願に基づく優先権

特許協力条約(PCT)に基づく国際出願と優先権


PCTによる国際出願と優先権は下表のようになります。

日本にされた国内出願を優先権の主張の基礎とした国際出願が、日本を指定国として含む場合(いわゆる「自己指定」の場合)は、日本の指定に係る部分については、国内優先権(我が国にした出願に基づく優先権)を主張することができます。

我が国及び他の PCT 締約国を指定国 とする国際出願を優先権の主張の基礎とした国際出願が日本を指定国として含 む場合は、日本の指定に係る部分については、パリ条約による優先権を主張することができます。

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