商標の類否判断とは

商標の類否の判断の必要性

商標(マーク)の本質は、需要者(消費者)が他の商品やサービスと区別できること、すなわち出所識別機能にあります。例えば、A者の商標とB者の商標が互いに類似する場合を想定します。需要者は、商標が付されている商品やサービスをA者が提供しているものと思っていましたが、実はそれらはB者が提供していたものであったため、品質・サービス内容が需要者の希望していたものとまったく違ってしまうといったトラブルが起こり得ます。このため、類似する商標が存在しないようにすることが、非常に重要になるのです。

そのためには、①類似する商標を重複して登録させないこと②登録している商標に類似する商標の使用を禁止すること、が必要となります。

①の類似する商標を重複しないようにするために、商標登録出願時に登録商標に同一の商標はもちろん類似する商標も登録させないように特許庁で審査されます。

②の登録している商標に類似する商標の使用を禁止するために、商標権の効力の範囲は類似範囲まで広げられています。この範囲で、商標権者は独占排他権を与えられ、この範囲の商標を使用する者に対し、その商標権を侵害するものとして、差し止めや損害賠償をすることが認められています。

そのためには、商標が類似しているかどうかの判断が求められますが、ある商標と他の商標が類似かどうか判断するといっても、それらが類似するどうかは主観的なものですので、ある人は類似していると思うし、他の人は類似しないと思うかも知れません。

いかにして客観的な類否判断をすべきかが重要になるのです。

商標登録出願時の商標の類否判断

商標登録出願は特許庁で審査されます。商標登録出願をすると、特許庁て重複登録を排除するために既に類似する商標が登録されているかを審査します。この審査に「類否判断」が必要になるわけですが、このとき審査官の主観を排してできるだけ客観的に「類否判断」を行えるよう、特許庁では商標審査基準(類否判断については「先願に係る他人の登録商標」に記載されています。)を定めて、これを公表しています。以下、審査基準に基づいて見て行きたいと思います。

商標権の構成と類否判断

商標権は商標(マーク)とそれを使用する商品やサービス(指定商品・役務)により構成されます。

したがって、商標が類似しているかは、①商標(マーク)が類似しているかと②商品やサービスが類似しているかを判断する必要があります。これを図で表すと下図のようになります。

商標(マーク)が全く同一であってもその商標(マーク)を使用する商品やサービス(指定商品・役務)が違っていれば、非類似と判断されることになります。

商標の類否判断方法について

審査基準では、類否判断の次のようにすると規定しています。

商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。 なお、判断にあたっては指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮するが、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的 ・限定的な取引の実情は考慮しないものとする

少しわかりにくいかも知れませんが、出願商標と先行の登録商標(引用商標)を総合的に比較観察して需要者が出所混同するおそれがある場合には、それらは類似すると判断するものです。このとき取引の実情も考慮されるとしています。

具体的には、商標(マーク)の要素である外観(見た目)称呼(呼び名、読み音)、観念(想起される考え、意味)を各別に類否を判断し、商品又はサービスの類否を判断して、最終的に取引の実情を考慮して総合的に出所混同するおそれがあるか判断されることになります。

外観(見た目)

外観とは、商標(マーク)に接する需要者が、視覚を通じて認識する外形のことです。
商標の外観の類否は、商標に接する需要者に強く印象付けられる両方の外観(出願商標と引用商標)を比較するとともに、需要者が、視覚を通じて認識する外観の全体的印象が、互いに紛らわしいか否かを考察します。

例えば、次のものが類似するとされています。

例えば、次のものは非類似とされています。

称呼(呼び名、読み音)

称呼とは、需要者が、その商標に接したときに、自然に認識する読み音を言います。 例えば、審査基準では、次のように称呼の認定を行うとしています。

① 商標「竜田川」からは、自然に称呼される「タツタガワ」のみが生じ、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。
②「ベニウメ」の振り仮名を付した商標「紅梅」からは、自然に称呼される「コウバイ」の称呼も生ずるものとする。
③ 商標「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然な称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、 他の一方の称呼も生ずるものとする。

称呼の類否については、次のように判断するとしています。

称呼の類否について 商標の称呼の類否は、比較される両称呼の音質、音量及び音調並びに音節に関す る判断要素のそれぞれにおいて、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに、両商標が称呼され、聴覚されるときに需要者に与える称呼の全体的印象が、 互いに紛らわしいか否かを考察する。

判断要素である音質、音量、音調、音節の類似判断は審査基準に詳しく記載されていますのでそちらを参照して下さい。

例えば、以下の場合が類似するとされています。

「ダイマックス」      「ダイマックス」

「コロネト」        「コロネト」

「シーピーエ」       「シーピーエ

「RISCOAT」        「VISCOAT」
(リスコートの称呼)       (ビスコートの称呼)

「アレジエール」        「アリジェール」

「FOLIOL」         「HELIOL」
(フォリオールの称呼)       (ヘリオールの称呼)

観念(想起される考え、意味)

観念とは、商標に接する需要者が、その商標に接したとき自然に想起する意味又は意味合いをい います。

観念の類否について、審査基準では次のように判断するとしています。

観念の類否は、商標構成中の文字や図形等から、需要者が想起する意味又は意味合いが、互いにおおむね同一であるか否かを考察する。

例えば、次の場合は、「でんでんむし」と「かたつむり」は同じ意味を表すとして観念が類似するとしています。


次の場合は「虫」と「てんとう虫」で観念が異なるとしています。

結合商標の類否判断

結合商標の場合、その構成の一部だけからからも称呼、観念が生じ、この称呼、観念が類似していれば商標(マーク)が類似すると判断されることがありますので注意が必要です。例えば、次のように判断される場合があります。

① 識別力を有しない文字を構成中に含む場合
指定商品又は指定役務との関係から、普通に使用される文字や商品の品質等を表示する識別力ない文字を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似するものとされます。

例えば、

指定役務「写真の撮影」について、「スーパーライオン」と「ライオン」は、「スーパー」の部分が役務の質を表示するため、「スーパー」のない「ライオン」と類似するとされます。

指定商品「菓子」について、「銀座小判」 と「小判」 は、「銀座」の部分が、商品の産地・販売地を表示するため、「銀座」のない商標「小判」と類似するとされます。

② 需要者の間に広く認識された商標を構成中に含む場合
指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、原則として、その他人の登録商標と類似するものとされます。

例えば、

指定商品「かばん類」について 「PAOLOGUCCI」と「GUCCI」 とは類似します。

指定役務「航空機による輸送」について 「JALFLOWER」と「JAL」 とは類似します。

商品又は役務(サービス)の類否判断

商品又は役務の類否判断については、審査基準では次のようにするとされています。

商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、出願商標及び引用商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断する。


審査段階の実務では、商品や役務の類否判断は、「類似商品・役務 審査基準 」により判断されます。
「 類似商品・役務審査基準」には類似する商品や役務ごとに類似群コードが割り振られており、一応類似群コードが同じ商品や役務は類似するものと推定されます。
したがって、商標登録出願段階では、類似群コードが同じものは類似する商品・役務であると考えて差し支えないと思います。
商品や役務の指定については「商標出願の商品や役務(サービス)の指定とは」を参照ください。

総合的判断

類否判断は、これまで、見てきました商標(マーク)の外観、称呼、観念が類似するか、また商品・役務が類似するかを判断し、取引の実情を考慮して最終的に出所の誤認・混同をするかにより判断されます。

以下、具体的な実例で見てみますと

これらは、『カンガルーの特 徴を捉えて黒く塗りつぶして描いた点において構成の軌を一にしているため、看者に与える印象が近似したものになり、時と処を異にして両者に接するときは互いに紛れやすい 」として、外観が類似し、「 そのカンガルー図形の部分についても、文字部分と同程度に看者の注意を引くものと解するのが相当であり、 本件商標が付された被服に接した一般消費者が、これを、一般消費者に相当程度広く認識されている引用各商標が示す出所に係る商品であると誤認混同するおそれは否定できない 。』として類似すると判断され、出願商標(本件商標)は登録できないこととされました。

これらは、『外観上の類似の度合いは多少低 いとはいえ、「アフタヌーンティー」との称呼とともに、「午後の紅茶」との観念を共通にするものと認められるから、本願商標は、商品の出所につき引用両商標との関係で誤認混同されるおそれがありうる。』として類似すると判断され、出願商標(本件商標)は登録できないこととされました。

これらは『本願商標中「銀座」「Ginza」の文字部分は、東京都中央区に存在 する各種高級商品を販売することで著名な繁華街の名称であり本願商標の指定商品の取引者、 需要者によっても、そのように認識され、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標の構成のうち、自他商品の識別機能を果たす部分は、「ステファニー」、「STEFANY」の部分 にあるものと理解し、これより生ずる称呼をもって取引に当たるからは「ステファニー」との称呼も生ずるものと認められる。』として類似すると判断され、出願商標(本件商標)は登録できないこととされました。


商標権侵害のときの商標の類否判断

商標権侵害事件の類否判断も基本的には出願時の類否判断と変わるところがなく出所の誤認・混同するかで判断されていますが、その判断に際して、特に極めて具体的な取引事情を考慮する点に相違があります。

次の例は有名な大森林事件の最高裁の類否判断です。

『両者は, いずれも構成する文字からして増毛効果を連想させる樹木を想起させるものであることからすると,全体的 に観察し対比してみて,両者は少なくとも外観,観念 において紛らわしい関係にあることが明らかであり, 取引の状況によっては,需要者が両者を見誤る可能性は否定出来ず,ひいては両者が類似する関係にあるものと認める余地もあるものといわなければならない。』として 、具体的な取引事情を考慮しなければならないとしています。

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