商標登録ができない商標とは-他人の商標と紛らわしい商標

商標登録出願をしても商標登録ができない商標として次のものがあります。

自己の商品・役務と、他人の商品・役務とを区別することができないもの(識別力のない商標)
公益に反する商標
他人の商標と紛らわしい商標

今回は、「他人の商標と紛らわしい商標」とはどのようなものかを見て行きたいと思います。

他人の商標と紛らわしい商標とは

他人の使用する商標、他人の氏名・名称等と紛らわしい商標は登録を受けることはできません。

具体的には商標法4条1項に記載されている次のものが該当します。

他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標 (8号)
他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するもの(10号)
他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、指定商品・役務と同一又は類似のもの(11号)
他人の登録防護標章と同一の商標(12号)
種苗法で登録された品種の名称と同一又は類似の商標(14号)
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(15号)
真正な産地を表示しないぶどう酒又は蒸留酒の産地の表示を含む商標(17号)
他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標(19号)

審査段階では11号による登録の拒絶が多いので、先に登録されている商標がないかを十分に調査する必要があります。

他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標(8号)

他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若し くはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

ここでいう「他人」とは、現存する自然人及び法人(外国人を含む。)を指します。

自己の氏名、名称、略称等の商標であっても、「他人の氏名、名称、著名な略称等」に該当する場合には、その他人の人格的利益を損なうものとし て、本号に該当する場合があります。

ただし、その他人の承諾を得ているものは本号に該当しません。

例えば、

国家元首の写真やイラスト、著名な芸能人、スポーツ選手等

他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するもの(10号)

他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識され ている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似 する商品若しくは役務について使用をするもの

商標登録されていない商標であっても、需要者に広く認識されている商標(周知商標)に類似する商標は商標登録できません。

周知商標は、需要者に広く認識されている商標だけでなく、取引者の間に広く認識されているものも含まれます。また、全国的に認識されている商標だけでなく、ある一地方で広く認識されている商標をも含みます。

周知商標の例 は電子情報図書館(J-PlatPat)で検索することができます。
J-PlatPat」→「商標」→「9.日本国周知・著名商標検索」

他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、指定商品・役務と同一又は類似のもの(11号)

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商 標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条 第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下 同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

本号は、商標登録出願で「商標登録できない(拒絶査定)」とされることの最も多い重要な規定です。

一商標一登録主義及び先願主義に基づくもので、他人が既に登録した商標と同一又は類似する商標は登録できないとするものです。

既に他人が登録した商標があるかどうかを「商標調査」する必要があり、このとき、商標権は類似範囲にまで及びますので、類否判断が必要となります。

具体的な、類否判断は「商標の類否判断とは」をご覧ください 。

他人の登録防護標章と同一の商標(12号)

他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商 標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの

登録商標が使用により著名となると、その識別力(記憶、印象等)が強まり、その登録商標を他人が非類似の商品又は役務に使用すると、商品又は役務の出所の混同が生じることがあります。

このような場合に、その商品又は役務について自らは使用しないものの、他人の使用を禁止するための標章が防護標章です。これにより禁止権の範囲が拡大され、より広い範囲で登録商標と同一または類似する他人の商標の使用を阻止することができるようになります。

種苗法で登録された品種の名称と同一又は類似の商標(14号).

種苗法第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品 種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若し くは役務について使用をするもの

品種登録を受けた品種の名称を特定人に独占させないように、品種登録を受けた品種と同一又は類似する種苗又はこれに類似する商品や役務に使用する商標は商標登録できないとされています。

他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(15号)

他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号ま でに掲げるものを除く。)

本号は10号から14号に該当するもの以外の他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標の登録を排除するための総括条項です。

例えば、

■他人の著名な商標と同一又は類似の商標を、当該他人が扱う商品(役務)とは非類似の商品(役務)に使用した場合に、その商品(役務)が著名な商標の所有者、あるいはその所有者と経済的・組織的に何らかの関係がある者によって製造・販売(役務の提供)されたかのような印象を与えるとき などが該当します。

真正な産地を表示しないぶどう酒又は蒸留酒の産地の表示を含む商標(17号)

日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章の うち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒に ついて使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地 域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの


■日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものは「特許庁商標審査便覧」 (商標法第4条第1項第17号の規定による産地の指定について )に記載されています。

例えば、

ぶどう酒山梨
しょうちゅう
薩摩、 壱岐 、琉球

■世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章の うち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒に ついて使用をすることが禁止されているものについては、「特許庁商標審査便覧」 (巻末資料2-2 WTO加盟国によって保護されているぶどう酒又は蒸留酒の産地の表示リスト) に記載されています。

他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標(19号)

他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者 の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を 得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用 をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

日本国内や外国で、需要者の間にて広く認識されている商標と同一又は類似の商標を、不正の目的をもって使用 をするものと認められる場合は、商標登録することができません。

例えば、

■外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていない事情を利用して、商標を買い取らせるために先取り的な出願をする場合
■外国の権利者の国内参入を阻止したり国内代理店契約を強制したりする目的で出願する場合
■日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではないが、出所表示機能を希釈化させたり、その信用や名声等を毀損させる目的で出願する場合

参考条文

商標法4条1項

(商標登録を受けることができない商標)

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標三 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの
四 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標
五 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
十三 削除
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

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