意匠の類似とは


意匠権の効力を、意匠法では「 意匠権者は,業として登録意匠及びこれに類似 する意匠の実施をする権利を専有する」(23条)と規定しており、意匠権は登録された意匠だけでなくその類似範囲まで及ぶとしています。

ベン図で表しますと下図のようになります。


そして、意匠法24条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。 」と規定されており、意匠が類似するか否かの判断の主体は需要者であり、意匠の類否判断は需要者の感じる美感に基づいて行うとしています。

意匠権は類似範囲にまで及ぶため、意匠の類否類似判断は、大きく分けて出願審査段階と権利行使段階の 2 つの局面で必要となります。

出願審査段階では、既に存在する意匠と出願された意匠が類似するか否かの判断がなされ、類似する場合は出願が拒絶されます。

出願審査段階では、下図のように、出願意匠(本願意匠)の類似範囲に関係なく、引用意匠の類似範囲内に本願意匠の同一の範囲が入ったときに、引用意匠に類似するとして拒絶査定がなされます。

なお、引用意匠が登録意匠である場合は、b.のように類似範囲が重なって(抵触)登録される場合があり、この場合は先願の意匠権者のみがその抵触部分の意匠を実施することができます。(意匠法26条2項)


権利行使の段階の類否判断においては、侵害意匠(イ号意匠)の類似範囲に関係なく、c.のように登録意匠の類似範囲に侵害意匠(イ号意匠)の同一範囲が入った場合に類似すると判断され、権利侵害をしているとされます。


出願審査段階と権利行使段階では、判断の基準となる類似範囲が反対になるので、意匠の類否判断はそれぞれ相違するとするという議論もありますが、出願段階の審査の基準である意匠審査基準は、判例等に基づいて改定が進められ、現在の審査基準の類否判断手法がすぐれていると思います。

以下では、審査基準に沿って意匠の類否判断をどのような行うかを見て行きます。

意匠の認定


意匠の類否判断に入る前に、意匠をどのように認識するかについて見て行きます。

意匠は抽象的な概念です。これを具体的に捉えるために、意匠を「物品」とその「物品」の形状、模様、色彩又はこれらの結合である「形態」とに分けて意匠を認識します。

そして、さらに「物品」はその用途機能の要素に分けて認識します。。

これを図示しますと、意匠は図のような要素で構成されているものと考えられ、これらの要素を具体的に検討することで、抽象概念である意匠をある程度具体的に捉えることができるものと考えられます。




我が国の審査においては,欧州等の考え方と違って、物品と形態との二元構造によって判断されています.すなわち、意匠は,物品と形態それぞれ独立に類似判断をして、物品が非類似であれば、形態が類似していても非類似であると判断されます。

この関係を図で表すと次の図のようになります。



ただし、厳密にはこのようなマトリックスで捉えられないようなケースもあります。

例えば、物品が徳利と花瓶のような場合、物品は非類似ですが、形態が類似する場合において両意匠は類似すると判断される場合があります。


判断主体


審査基準では、意匠の類似判断は、意匠の創作に係る創作者の主観的な視点を排し、需要者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断するとし、取引者を含む需要者を類否判断の判断主体としています。


意匠の類否判断の観点


意匠の審査では、類否判断は次の観点によって行われます。 


   1.対比する両意匠の意匠に係る物品の認定及び類否判断 
  2. 対比する両意匠の形態の認定 
  3. 形態の共通点及び差異点の認定 
  4. 形態の共通点及び差異点の個別評価 
  5. 意匠全体としての類否判断 



1.対比する両意匠の意匠に係る物品の認定及び類否判断


意匠に係る物品の使用の目的、使用の状態等に基づき、両意匠の意匠に係る物品の用途及び機能を認定します。

用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がある物品は、物品の用途及び機能に類似性があると判断されます。

意匠に係る物品の用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がない場合には、意匠は類似しないものとされます。 


2. 対比する両意匠の形態の認定及び形態における共通点・差異点の認定


■観察は、肉眼による視覚観察を基本としますが、ダイヤモンドのように取引の際、拡大観察することが通常である場合には、肉眼によって認識できるものとして扱われます。

■ 意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)と各部の形態を認定します。

■両意匠の、意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様) 及び各部の形態における共通点及び差異点を認定します。

3. 形態の共通点及び差異点の個別評価


各共通点及び差異点における形態に関し、以下評価を行い、各共通点及び差異点が意匠全体の美感に与える影響の大きさを判断します。

■対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及びその注意を引く程度の 評価 
〇その大きさが意匠に係る物品全体に占める割合が大きい場合には、その部分が注意を引く程度は大きい。
〇 物品自体の大きさが違ってい たとしても、それが物品の用途及び機能の認定に影響を及ぼさない限り、その違いは、強く注意を引くものとはならない。
〇 観察されやすい部分の形態であれば、注意を引きやすい。
〇 意匠に係る物品の外観について行い、使用時に目にすることのない内部形態は、意匠の特徴として考慮しない。
〇 物品の流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は、原則として、そ の他の部位よりも小さい。

■ 先行意匠群との対比に基 づく注意を引く程度の評価  
〇 ありふれた形態は、その形態が注意を引く程度は小さい 。
〇 先行意匠には見られない新規な形態であって創作的価値が高い形態は強く注意を引く 。
〇 機能的な要求の実現に造形的な自由度があり、その形状でなければならない必然性がない場合の形状については、その造形的な特徴を考慮する 。
〇 通常用いられる材質そのままの模様・色彩をもって表されていると認められる場合、その模様・色彩が意匠全体の美感に与える影響は極めて小さい。

4. 意匠全体としての類否判断


両意匠の形態における各共通点及び差異点についての個別評価に基づき、意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に、需要者(取引者を含む)に対して 異なる美感を起こさせるか否かを判断します。

両意匠の形態における各共通点及び差異点についての個別評価に基づき、意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に、需要者(取引者を含む)に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断します。 


部分意匠の類似


部分意匠についても、部分意匠の意匠に係る物品と公知の意匠の意匠に係る物品とが同 一又は類似でなければ意匠の類似は生じません。 

出願する部分意匠と公知の意匠とが以下の4条件すべてに該当する場合、両意匠は類似すると判断されます。 

①部分意匠の意匠に係る物品と公知の意匠の意匠に係る物品とが同一又は類似であること

②部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」と公知の意匠における「意匠登録を受けようとする部 分」に相当する箇所との用途及び機能が同一又は類似であ ること 

③部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」と公知の意匠における「意匠登録を受けようとする部 分」に相当する箇所との形態が同一又は類似であること 

④部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部 分」の当該物品全体の形態の中での位置、大きさ、範囲と 公知の意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に 相当する箇所の当該物品全体の形態の中での位置、大きさ、 範囲とが同一又は当該意匠の属する分野においてありふ れた範囲内のものであること


部分意匠の類否判断の観点


部分意匠についても、全体意匠の類否判断の観点と同様です。

(1) 意匠に係る物品の共通点及び差異点の認定
(2) 当該部分における用途及び機能の共通点及び差異点の 認定
(3) 当該部分の形態の共通点及び差異点の認定
(4) 当該部分の位置、大きさ、範囲の共通点及び差異点の 認定
(5) 公知の意匠と部分意匠との類否判断


共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響


共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は個別の意匠ごとに変化するものですが、一般的には、次のようであるとしています。

①見えやすい部分は、相対的に影響が大きい。
②ありふれた形態の部分は、相対的に影響が小さい。
③大きさの違いは、当該意匠の属する分野において常識的な範囲内のものであれば、ほとんど影響を与え ない。
④材質の違いは、外観上の特徴として表れなければ、 ほとんど影響を与えない。
⑤色彩のみの違いは、形状又は模様の差異に比してほとんど影響を与えない。
⑥位置、大きさ、範囲は、当該意匠の属する分野にお いてありふれた範囲内のものであれば、ほとんど影響を与えない。


部分意匠が類似するとされる例


下図は、「電気掃除機本体」の部分意匠が全体意匠である公知意匠に類似する例です。



下図は、「デジタルカメラ」の部分意匠出願が部分意匠である公知意匠に類似する例です。

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