外国商標出願-米国商標制度の概要

使用主義(Principle of Use)

我が国の商標制度は、商標出願をして登録されることにより発生します(登録主義)が、米国は商標の使用により権利が発生する使用主義を採用しています。


商標保護の仕組み

米国における商標保護の仕組みは、コモンロー、各州が独自で制定する州法連邦法による保護の多重構造となっています。


コモンロー(Common Law)による保護

米国内で商標を使用すると登録することなく当然にコモンローにより商標権が発生します。コモンローとは 裁判所が伝統や慣習、先例に基づき判決して蓄積され確立された判例法や不文法のことです。

コモンローによる商標権の保護範囲は使用により認知されている地域、すなわち、出所混同を生じる地域に限られます。

また、訴訟などで商標権を有する旨の立証は商標権者がする必要があります。


州法による保護

米国のある特定の州だけで保護を受けたい場合は、州法による登録を受けることもできますが、日本からの商標登録出願では、この登録による保護はあまり意味をなさないでしょう。


米国連邦商標法(ランハム法、Lanham Act)による保護

ランハム法により商標出願をし、連邦登録されると、コモンローによる先使用者は、その商標を使用することはできますが、もはや保護範囲の拡張ができなくなります。

また、連邦登録には以下のようなメリットがあります。

■米国全域へ連邦登録の権利者の商標権が存在することについて、通知がなされたものとみなされ、善意の抗弁(good faith defense) ができなくなる。

■ 一部の地域でしか使用していなくても出願日において全米で出願商標の使用をしたとみなされる。

■ 連邦登録を受けた商標を税関に申請することにより、 米国税関での侵害品の輸入差止をすることができる。

■連邦登録は公示されるため不要な紛争を回避することができ、また商標権の有効性についての挙証責任転換を図ることができる。

従って、米国は使用主義の国ですが、やはり連邦登録をする必要性があります



米国商標出願のベース

米国の出願の方法としては、次の5つの方法がりますが、日本からの出願は2~5の方法を採用することができます。

  1. 使用に基づく出願(1条(a))
  2. 使用意思(ITU Intent To Use)に基づく出願(1条(b))
  3. パリ優先権主張に基づく出願(44条(d))
  4. 本国登録に基づく出願(44条(e))
  5. マドプロによる国際出願(66条)



使用に基づく出願(Use in Commerce)

外国との取引または州際取引にその商標を使用している事実を主張して出願をします。願書で、その商標を使用している旨の宣誓(Declaration)を行う必要があります。


使用意思(ITU Intent To Use)に基づく出願

願書で出願商標を使用する誠実な意思 (Bona Fide Intention to Use the
Mark)
を宣誓して出願します。

すなわち、数年程度で現実にその商標を使用する意思 すなわち、後日問題が発生したときに使用意思があったことを立証できるぐらいの、 ある程度の客観性が必要です。


パリ優先権主張に基づく出願

日本に商標出願をして、6月以内に、パリ条約上の優先権を主張して出願することができます。


本国登録に基づく出願

日本において正規に登録された商標は,それを基礎として,登録出願することができます。
出願人は,日本での登録についての真正謄本,写 真複写,証明書又は認証謄本を提出しなければなりません。

マドプロよる国際出願

マドプロによる国際出願又は事後指定の際に米国を指定して、米国に出願することができます。
この時、使用意思を宣誓するために、様式MM18(標章を使用する意思の宣言書,
DECLARATION OF INTENTION TO USE THE MARK)を2ヶ月以内に提出する必要があります。



保護対象

商標法45条では、「商標」の保護は、伝統的な「語,名称,記号若しくは図形又はその結合 」だけでなく、出所を識別できるものであれば、どのような形態でも認めようとするもので、新しいタイプの商標も保護されます。日本ではまだ認められていない、におい、触感、味覚の商標も認められることがあります。また、商標の保護はトレードドレスとして、商標審査基準(TMEP 1202.02    Registration of Trade Dress)に従来のパッケージのラップから
“total image and overall appearance” of a product, or the totality of the elements, and “may include features such as size, shape, color or color combinations, texture, graphics.” 
として、かなり広い概念で捉えられています。

ただし、機能性(Functionality)を有する商標は認めないとしており、これにより商標の範囲はある程度の絞りがかかっています。


「商標」の定義(45条)

「商標」という用語は,語,名称,記号若しくは図形又はその結合であり,次の条件に 該当するものを含む。
(1) ある者によって使用されているか,又は
(2) それを,ある者が取引において使用する誠実な意図を有しており,かつ,この章によっ て制定された主登録簿への登録を出願するものであって, その目的が独自の製品を含む,その者の商品を特定し,それを他人が製造又は販売するもの から識別し,また,その商品の出所を,それが知られていない場合でも,表示することにあ るもの




「サービスマーク」の定義(45条)

「サービスマーク」という用語は,語,名称,記号若しくは図形又はその結 44 合であって,次の条件に該当するものを意味する。
(1) ある者によって使用されているか,又は
(2) それを,ある者が取引において使用する誠実な意図を有しており,かつ,この章によっ て制定された主登録簿ヘの登録を出願するものであって, その目的が独自のサービスを含む,その者のサービスを特定し,それを他人のサービスから 識別し,また,そのサービスの出所を,それが知られていない場合でも,表示することにあ るもの。ラジオ又はテレビ番組の題名,キャラクター名及びその他の識別性のある特徴は, それら又はその番組がスポンサーの商品を広告するものであっても,サービスマークとして 登録することができる。





登録要件

商標登録されるためには、日本の商標登録と同様に、標章(マーク)が識別力を有すること、不登録理由に該当しないことが必要です。


識別力(Distinctiveness)

日本の標章(マーク)の識別力については商標法3条1項に規定されていますが、米国の場合、「出願人の商品を他人の商品から識別することを可能にする商標は,その性質を理由として, 主登録簿に登録することを拒絶されることはない。」の記載があるのみで具体的な規定は見当たりません。

識別力は米国の場合、判例により、下表のように5段階で評価される様です。1のGenericは絶対的に登録されませんが、2のDescriptive使用による識別力(Secondary Meaning)を証明できれば、登録することができます。日本の商標(マーク)の識別性と大差ないとものと考えられます。




使用による識別力(Secondary Meaning)

米国は使用主義の国であるため、使用による識別性(Secondary Meaning) が重要な概念で、わが国の3条2項よりも広範な概念です。

従って、識別力がないとして拒絶された場合でも、その後出願の際に、5年以上排他的・継続的に使用した証拠を提出すれば登録が比較的容易になります。

商標法2条(f)
「・・・明示して除外されている場合を除き,本 条の如何なる規定も,出願人が使用する標章であって,取引において,出願人の商品を識別 することができるようになっているものの登録を妨げない。長官は,識別性の主張がなされ る日前 5 年間にわたる,出願人によるその標章の取引における実質的に排他的かつ継続的な 標章としての使用の証拠を,当該標章が取引において,出願人の商品に付して又は関連して 使用される場合に,識別性を有するようになっている一応の証拠として承認することができ る。・・・」



主登録と補助登録

連邦登録には主登録補助登録があります。

主登録 (Principal Register)
全ての登録要件を充たすと主登録簿に登録されます。

補助登録(Supplemental Register)
 記術的表示などの識別力がない商標であっても、暫定的に補助登録簿に登録しておくことができ、補助登録簿に登録して、5年間使用続け、再出願をすることにより、主登録簿に登録されやすくなります。

また、後願出願を排除するための引例となったり、パリ優先権の基礎出願、マドプロ出願の基礎商標とすることもできるメリットがあります。




不登録理由

不登録理由には、日本と同様に次のものがあります。

(1) 反道徳的、欺瞞的若しくは中傷的なもの、又は生存者若しくは死者、組織、信仰又は国の象徴を誹謗する又はそれとの関係を偽るおそれがある標章
(2) ぶどう酒もしくは蒸留酒又はそれに関連して使用した場合に原産地以外の場所を特定し、1996年1月1日以後に出願人によって最初にぶどう酒もしくは蒸留酒又はそれに関連して使用される地理的表示からなる標章
(3)米国、州もしくは地方自治体又は外国の国旗、紋章若しくはその他の記章、又はそれらの類似のもののみからなる標章、又はそれらを含む標章
(4) 赤十字の商標、又は「赤十字」若しくは「ジュネーブ十字」の言葉
(5) 著名な在郷軍人会等の各法律によって保護される複数の組織の標章
(6) 米国人が以前から使用したり、放棄されていない登録商標、又は商標若しくは商号に類似の商標であって出願人の商品又は関連して使用した場合に、混同、 錯誤又は詐欺を生じるおそれがある標章
(7) 商品に使用されると商品を単に説明する、又は誤った説明になる標章
(8) 証明商標を除く本来地理的な説明をする標章
(9) 本来の地理的な説明を誤って説明する標章
(10) 本来単なる異名にすぎない標章
(11) 全体として機能的な事項から構成される標章

出所混同(Likelihood of Confusion)のおそれ

米国での「出所混同のおそれ」の判断は、1961年のポラロイド事件の判断に用いたポラロイドファクターが有名です。それ以降デュポンファクターといわれる判断がなされていますが、概ね日本での判断とあまり大差はないように思われます。

ポラロイドファクター
1 先行商標の強さ 識別力や知られている程度
2 商標の類似性   外観・称呼・観念をもとに判断して近似点が相違点を凌駕するか
3 商品・役務の類似 
4 原告のビジネス拡張の可能性
5 現実の混同(間違いの電話、メール、苦情などがあるか)
6 被告の商標選択の善意(Good Faith)
7 被告の商品・役務の質
8 消費者の洗練の程度(Sophistication) 安価なものほど混同しやすく、高価なものほど慎重に選択される



商標権を維持するために

「取引における使用」(Use in Commerce)

米国は使用主義国であり、その商標を適正に取引に使用しないと商標登録の効果を失います。

使用の宣誓書(8条)

商標の公告日から 6 年の満了直前の 1 年以内 に、商標の使用見本を添付して使用宣誓をする必要があり、宣誓をしない指定商品の登録は取消されます。



マドプロによる国際出願の使用宣誓書(71条)

マドプロによる国際出願の場合も、米国に登録(保護拡張証明の発行)から 6 年の期間が満了する直前である 1 年期間内に、商標の使用見本を添付して使用宣誓をする必要があり、宣誓をしない指定商品の登録は取消されます。


標章の使用の権利の不可争性 (14条)

主登録簿に登録後5年間継続的に使用され、 商品又はサービスであって, それに付して又は関連して当該登録標章がその登録の日後連続 5 年間継続使用され,かつ, 現に取引において使用されているものについて,当該登録標章を取引において使用する所有 者の権利は,争うことができないものとする。」と規定されていいます。

この権利を取得するために、商標の公告日後の 5 年の継続期間の満了から 1 年以内に,不可争性(Incontestability) を獲得するための宣誓供述書を提出することができます。

参考資料

不登録要件(ランハム法2条)

第 2 条(15 U.S.C. §1052) 商標は主登録簿に登録することができる;同時登録 出願人の商品を他人の商品から識別することを可能にする商標は,その性質を理由として, 主登録簿に登録することを拒絶されることはない。ただし,その商標が次に該当するときは この限りでない。
(a) 次のものから成り又はそれらを含むこと。不道徳的,欺瞞的若しくは中傷的な事項;又 はある者(生存しているか死亡しているかを問わない),団体,信仰若しくは国民的な象徴を 軽蔑し,若しくはそれらとの関係を偽って示唆し,又はそれらを侮辱し若しくはそれらの評 判を落とす虞のある事項;又は地理的表示であって,ぶどう酒若しくは蒸留酒に付して又は 関連して使用される場合に,その商品の原産地以外の場所を特定するものであり,かつ,出 願人によって,(第 19 巻第 3501 条(9)に定義されている)WTO 協定が合衆国に対して効力を生 ずる日から 1 年以後に初めてぶどう酒若しくは蒸留酒に付して又は関連して使用されている もの
(b) 合衆国,何れかの州若しくは地方公共団体,又は何れかの外国の旗章,紋章若しくはそ の他の記章又はそれらの擬態から成り,又はそれらを含むこと
(c) 生存中の特定の個人を示す名称,肖像又は署名から成り,又はそれらを含み(ただし,当 該生存者からの書面による承諾を得ている場合を除く),又は死去した合衆国の大統領の氏名, 署名又は肖像であって,その未亡人が生存している期間におけるものであること(ただし,未 亡人の書面による承認を得ている場合を除く)
(d) 特許商標庁に登録されている標章又は他人によって合衆国において以前に使用され,か つ,放棄されていない標章又は商号と著しく類似している標章であって,それが出願人の商 品に付して又は関連して使用されるときは,混同を生じさせ,若しくは誤認を生じさせ,若 7 しくは欺瞞する虞のあるものから成り,又はそれらを含むこと。ただし,長官が,同一若し くは類似の標章についての使用の態様若しくは場所又は商品であって,それに付して又は関 連して当該標章が使用されるものに関する条件及び制限の下での当該標章の 2 以上の者によ る継続使用が混同,誤認若しくは欺瞞を生ずる虞がないと決定した場合は,それらの者に対 して同時登録を,それらの者が次の時期の何れかより先に合法的同時使用の結果として当該 標章を使用する権原を有することになったときに,行うことができる。(1)係属中の出願の出 願日又はこの章に基づいて行われた登録(あれば)の内の最先のもの;(2)1947 年 7 月 5 日。 ただし,登録が,1881 年 3 月 3 日の法律又は 1905 年 2 月 20 日の法律に基づいて先に行われ, かつ,当該日においても引き続き完全な効力を保持している場合;又は(3)1947 年 7 月 5 日。 ただし,出願が 1905 年 2 月 20 日の法律に基づいてなされ,かつ,1947 年 7 月 5 日後に登録 された場合。係属中の出願の出願日又は登録に先立つ使用は,その出願又は登録の所有者が 出願人に対する同時登録の承認に同意した場合は,要求されないものとする。長官は,管轄 権を有する裁判所が,2 以上の者が取引において同一又は類似の標章を使用する権原を有す る旨の最終決定をした場合にも,同時登録を行うことができる。同時登録をするときは,長 官はそれぞれの者に対し,その標章の使用に関する態様若しくは場所又は商品であって,そ れに付して又は関連して当該標章が登録されるものについての条件及び制限を定めなければ ならない。
(e) 次の標章から成ること。(1)出願人の商品に付して又は関連して使用される場合に,それ らの商品を単に記述するか又は欺瞞的に記述するもの;(2)出願人の商品に付して又は関連し て使用される場合に,主として地理的にこれらの商品を記述するもの。ただし,原産地表示 として本巻第 1054 条に基づいて登録することができるものを除く;(3)出願人の商品に付し て又は関連して使用される場合に,主として地理的にこれらの商品を欺瞞的に記述するもの; (4)主として氏姓であるに過ぎないもの;又は(5)全体として機能的である事項を含むもの
(f) (a),(b),(c),(d),(e)(3)及び(e)(5)において明示して除外されている場合を除き,本 条の如何なる規定も,出願人が使用する標章であって,取引において,出願人の商品を識別 することができるようになっているものの登録を妨げない。長官は,識別性の主張がなされ る日前 5 年間にわたる,出願人によるその標章の取引における実質的に排他的かつ継続的な 標章としての使用の証拠を,当該標章が取引において,出願人の商品に付して又は関連して 使用される場合に,識別性を有するようになっている一応の証拠として承認することができ る。本条の如何なる規定も,標章であって,出願人の商品について使用される場合に,主と してそれらの商品について地理的に欺瞞的に記述するものであり,かつ,北米自由貿易協定 施行法の制定日前に,出願人の商品について取引における識別性を有することになっていた ものの登録を妨げない。第 43 条(c)に基づく不鮮明化による希釈化又は質の低下による希釈 化を生じさせる虞のある標章については,第 13 条に基づいて提起される手続に従う場合に限 り,その登録を拒絶することができる。第 43 条(c)に基づく不鮮明化による希釈化又は質の 低下による希釈化を生じさせる虞のある標章の登録は,第 14 条又は第 24 条の何れかに基づ く手続に従って取り消すことができる。