特許の委任省令要件とは



特許制度は、新しい技術を開発し、それを公開した者にその代償として、一 定期間、一定条件下に特許権という独占権を付与することにより発明の保護を図り、他方、第三者に対しては、この公開により発明の技術内容を知らせて、 その発明を利用する機会を与えるものです。

この発明の詳細な説明の記載について、特許法第 36 条第 4 項1号では、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分 野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」が必要とされています。

この 「経済産業省令で定めるところにより 」の部分が「委任省令要件」と呼ばれるもので、経済産業省令(特許法施行規則第 24 条の 2) で次のように規定されています。

特許法施行規則第 24 条の 2
経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。


すなわち、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解でき、また 審査及び調査に役立つように、発明が解決しようとする課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を、明細書の発明の詳細な説明に記載することが要請されています。

ここでは、 「審査基準(外部リンク)」にもとづいて、「委任省令要件」 を見て行こうと思います。

委任省令要件についての判断


(1) 「委任省令要件」で記載することが求められる事項は、以下のものです。

発明の属する技術分野
発明が解決しようとする課題及びその解決手段

(2)「 委任省令要件」が規定されている趣旨は、発明の技術上の意義を明らか にし、審査、調査等に役立てるというものです。 したがって、「委任省令要件」については以下のように取り扱われます。

〇あえて記載を求めると発明の技術上の意義についての正確な理解をむしろ妨げることになるような発明と認められる場合には、課題及びその解決手段が記載されなくても差し支えない。

〇当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明の属する技術分野の理解又は課題及び その解決手段の理解をすることができない出願については、委任省令要件違反とする。

(3) 従来技術及び従来技術と比較した有利な効果については、以下の点に留意する必要があります。

従来技術
従来技術を記載することは「委任省令要件」には含まれていませんが、従来技 術の記載から、発明の属する技術分野又は発明が解決しようとする課題が理解できる場合は、発明の属する技術分野又は発明が解決しようとする課題の記載に代わるものとなります。
従って、通常「明細書」には、従来技術が記載されています。

従来技術と比較した有利な効果
請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載することは、委任省令要件には含まれていませんが、有利な効果の記載から、 発明が解決しようとする課題が理解できる場合は、その記載は発明の解決しようとする課題の記載に代わるものとなります。


委任省令要件についての判断の審査


委任省令要件」についての判断の審査は以下の手順で行われます。

拒絶理由通知


審査官は、発明の詳細な説明の記載が、「委任省令要件」を満たしていないと判断した場合は、出願人にその旨の拒絶理由通知をします。

このとき、委任省令の規定により記載が必要な事項のいずれについての不備であるかを示して拒絶理由通知されます。

出願人の反論、釈明等


出願人は、「委任省令要件」違反の拒絶理由通知に対して、例えば、手続補正書意見書等により、審査官が認識していなかった従来技術等を明らかにして、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明が属する技術分野並びに発明が解決しようとする課題及びその解決手段を理解することができる旨の反論、釈明等をすることができます。

また、実験成績証明書によりこのような反論、釈明等を裏付けることができます。

出願人の反論、釈明等に対する審査官の対応


反論、釈明等により、発明の詳細な説明の記載が「委任省令要件」を満たすとの心証を、審査官が得られる状態になった場合は、拒絶理由は解消します。 そうでない場合は、「委任省令要件」違反の拒絶理由に基づき、拒絶査定がなされます。

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