通信販売やネット販売の商標にも使える「小売等役務」とは

平成18年の商標法の改正により、役務として「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が認められるようになりました。それ以前は小売 業者等がサービス活動に使用する商標は、「役務」に係る商標としては保護されていませんでした。そのため、小売業者等が商標を取得する場合は、その取扱う商品を指定して商標を取得していました。そのため取扱う商品が多区分に及ぶ場合は区分ごとに登録料がかかるため、小売業者等が商標登録するには多額の費用が必要となっていました。

平成18年の商標改正により、35類1区分で商標登録が可能となり、大幅にコスト削減されると共に 、小売又は卸売の業務において行われる総合的なサービス活動(商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげるもの)が手厚く保護されるようになりました。



対象となる小売業等の業態


総合小売業

百貨店や総合スーパー等の業態で取扱い品目が、衣料品、飲食料品及び生活用品を一括して1つの事業所で扱っており、かつ 衣料品、飲食料品及び生活用品 の各範疇のいずれもが総売上高の10%~70%程度の範囲内であるものです。

例えば、百貨店、総合スーパー、コンビニ等で、高島屋、大丸、イオン、セブンイレブン等があります。

その他特定の商品を取扱う小売業

一定のカテゴリーに属する各種の商品群を取扱う小売や卸売業、特定の商品のみを取扱う小売や卸売業の業態です。

例えば、前者には、家電量販店、ドラッグストアがあり、ヤマダ電機、エディオン、キリン堂、マツモトキヨシなどがあります。後者には、靴店、眼鏡店、洋服店があり、チョダ、ABCマート、メガネの三城、メガネの愛眼、洋服の青山などがあります。

通信販売、インターネット販売事業

実在の店舗を持たない 通信販売(テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどの媒体を利用するも の)も、商品の販売業を行っており、その業務において商品選択を容易にす ることや、商品の説明など、顧客に対する便益の提供を行っています。

例えば、ジャパネットたかた、 アマゾン、はぴねすくらぶ、千趣会、大塚商会などがあります。

ただし、インターネット上の仮想商店街に関するものであっても、小売業者等に販売の場(コンピュータサーバ内のエリア)を提供しているのみで、自ら商品の小売又は卸売を行っていない事業者は、小売又は卸売の業務において 役務を提供しているといえないため、小売等役務の提供に該当しません。

例えば、アマゾンは自ら販売を行っているので小売等役務に該当しますが、楽天のように販売の場を提供するのみで自ら販売を行っていない場合は小売等役務に該当しません。



小売等役務の保護範囲とは

小売等役務では次のようなものが保護対象になります。

① 商品の品揃え
② 商品の陳列
③ 接客サービス(商品購入の際の店員による商品の説明・助言など)
④ ショッピングカート・買い物かごの提供
⑤ 商品の試用(例えば、試着室の提供、電気製品の試用の場の提供など)
⑥ 商品の包装・紙袋・レジ袋の提供
⑦ 通信販売においては、顧客の 商品選択 の便宜のために、販売する商品のレイアウト等を工夫したカタログの提供( 例えば、ファッション関連の商品の通信販売カタログ上の品揃えでは、TPOに 応じた衣服、かばん、靴、装身具などをトータルコーディネイトしたときの状態を 顧客が視認できるような、商品の掲載方法を工夫したカタログにより商品の選択の 便宜を図ること )
⑧ インターネットサイトを通じた通信販売において、商品の選択 の工夫を顧客がインターネットに接続して、端末画面上で視認できるようなサイト を作成して商品の選択の便宜を図ること



小売等役務の指定の仕方

小売等役務は次のように記載する必要があります。〇〇〇には販売する商品を記載します。

〇〇〇の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

具体的には、特許庁の類似商品・役務審査基準の35類の類似群コード35K01から35K21までに記載(「小売等役務」)されています。(下記に該当する35類の小売等役務の部分を示します。)

例えば、総合小売業の場合は類似群コード35K01に該当し、次のように記載します。

衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各 種商品を一括して取り扱う小売又は卸売 の業務において行われる顧客に対する便 益の提供

総合小売業以外の小売等役務については、「小売等役務」に記載されているように類似群コード35K02~35K21に取扱い商品に対応して分類されています。

例えば、取扱い商品が織物及び寝具類の場合は、35K02に該当し、次のように記載します。


織物及び寝具類の小売又は卸売の業務に おいて行われる顧客に対する便益の提供



具体的な記載例(アマゾン)


以下に「アマゾン」の小売等役務の指定例を示します。「アマゾン」の場合、取扱い品目が多いので、取扱い品目ごとに記載されています。

衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,コンピュータソフトウェアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,楽器及びレコード・録音済みCDの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,写真機械器具及び写真材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供


これらが、以前であれば、商品の属する区分ごとに記載する必要がありましたので数区分~十数区分指定する必要がありました。
商標の登録料は区分数に比例し、高額なりましたが、小売等役務は35類1区分で指定でき、1区分の登録料でよいため大幅なコストカットできるようになりました。



類似商品・役務審査基準の35類 (小売等役務)

小売等役務35 - 10-15

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