商標の登録出願の審査とは



方式審査と実体審査


商標登録出願をすると、はじめに方式審査が行われます。
出願人の氏名の記載がないなど重要な欠陥がある場合は出願日の認定がなされません。早い者勝ちの先願主義を採用する日本では、出願日を認定してもらうことがとても重要です。
しかし、最近は電子出願ですので、出願前に形式上重要な項目等が出願ソフトでチェックされ、出願自体出来ないようになっていますので、出願日の認定されないような欠陥はまずありません。
出願日が認定されますと、記載事項が適正に記載されているか、必要な所定の手数料が納められているかといった形式的な事項が審査され、補正が必要な場合は補正命令が出願人に通知されます。

方式要件を満たすと、出願後概ね6~9か月後特許庁の審査官により、出願された商標が登録することができる要件に合致するものであるかどうかの判断をする実体審査が行われます。


実体審査とは


実体審査では、特許庁の審査官が商標法15条「拒絶の査定」に記載されている事項をチェックし出願された商標が登録すべきものかどうかの判断を行います。15条に違反していると判断した場合は、出願人に拒絶理由通知が出されます。


以下、15条に規定されている「拒絶理由」について説明します。


商標登録の要件(3条)



自己の業務に使用をする商標(3条1項柱書)


3条1項は柱書には「 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げ る商標を除き、商標登録を受けることができる。 」と規定されおり、自己の業務について使用する商標でなければ、登録を受けることはできません。

例えば、次のようなものは、自己の業務に使用するとは認められません。

① 指定役務に係る業務を行うために法令に定める国家資格等を有することが義務 づけられている場合であって、願書に記載された出願人の名称等から、出願人が、 指定役務に係る業務を行い得る法人であること、又は、個人として当該国家資格等 を有していることのいずれの確認もできない 場合

②出願人等が出願後3~4年以内(登録後3年に相当する時期まで)に商標の使用 を開始する意思がない場合


識別力があるか(3条1項各号)


商標法3条1項に商標の登録要件としていわゆる「識別力」を有しなければ登録できないとされています。
3条1項には「識別力」を有しないものとして、下記のものが規定されています。

1号 普通名称を普通にもちいられる方法で表示
2号 慣用されている商標
3号 記述的商標
4号 ありふれた氏又は名称
5号 極めて簡単でかつありふれた商標
6号 需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できない商標

出願商標がこれらに該当する場合は、出願人に「拒絶理由」が通知されます。
詳細は「識別力のない商標」をご覧ください。


使用により著名となった商標(3条2項)


3号から5号に該当する商標であっても、その商標が使用されて、何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されるているものは、商標登録を受けることができます。


商標登録を受けることができない商標 (4条1項)


審査官はその商標が4条1項の商標登録を受けることができない商標に該当するかどうかの判断を行い、該当する場合は出願人に拒絶理由を通知します。

これらの商標は、大きくは

  ■公益に反する商標
  ■他人の商標と紛らわしい商標

に区分されます。具体的な項目は以下の通りです。

1号 国旗、菊花紋章等
2号 パリ条約の同盟国等紋章その他の紀章で経済産業大臣の指定するものと同一又は類似の商標
3号 国際連合その他の国際機関の表象で経済産業大臣の指定するものと同一又は類似の商標
4号 赤十字等の標章と同一又は類似の商標
5号 条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号
6号 国等の著名なものと同一又は類似の商標
7号 公序良俗を害するおそれがある商標
8号 他人の肖像、氏名、名称、著名な雅号等を含む商標
9号 博覧会の賞と同一又は類似の商標
10号 著名商標と同一又は類似商標でその指定商品等と同一又は類似する商標
11号 他人登録商標と同一又は類似する商標
12号 他人の登録防護標章と同一の商標
14号 品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標
15号 他人の業務の商品等と混同を生ずる恐れがある商標
16号 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
17号 当該産地以外の地域を産地とする葡萄酒等に使用する商標
18号 商品等の当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
19号 日本国内又は外国で著名な商標であって、不正の目的で使用するもの


その他の拒絶理由


地域団体商標の登録要件違反(7条の2第1項)


地域団体商標出願の場合は、審査官はその出願が地域団体商標の登録要件に該当しているかどうか判断し、該当していない場合、審査官は出願人に拒絶理由を通知します。


先願の要件違反(8条2項、5項)


8条2項には「 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があつたときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。 」と、先願の出願人のみが登録を受けることができる旨規定されています。

また、5項には協議により最先の出願人を定めることができなかったときは「 特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた一の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。 」 旨規定されています。

これらに違反して、商標出願された場合、審査官は出願人に拒絶理由を通知します。

商標登録取消後の再出願期間違反(51条2項、53条2項)


商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から五年を経過した後でなければ、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について、その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができません。

これらに違反して、商標出願された場合、審査官は出願人に拒絶理由を通知します。


外国人の権利の享有違反(77条3項)


日本国内に住所又は居所(法人にあつては、営業所)を有しない外国人で、日本に商標出願をする権利を有しない者が出願した場合は、審査官は出願人に拒絶理由の通知します。


条約の規定により商標登録をすることができないもの (15条2項)


条約の規定により商標登録をすることができない商標の出願がなされた場合、
審査官は出願人に拒絶理由の通知します。


商標の特定ができているか(5条5項)


特殊な商標について商標登録を受けようとする場合は、経済産業省令に定められているところにより具体的にその商標を特定する必要があります。

その商標が具体的に特定されていない場合、 審査官は出願人に拒絶理由の通知します。

一商標一出願(6条)


商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにする必要があります。(一出願多区分制)
また、その指定は、政令で定める商品及び役務の区分に従つてする必要があります。

これらに違反して、商標出願された場合、審査官は出願人に拒絶理由を通知します。


参考資料


商標法関連条文


(審査官による審査)
第十四条 特許庁長官は、審査官に商標登録出願を審査させなければならない。

(拒絶の査定)
第十五条 審査官は、商標登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その商標登録出願に係る商標が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定により商標登録をすることができないものであるとき。

二 その商標登録出願に係る商標が条約の規定により商標登録をすることができないものであるとき。

三 その商標登録出願が第五条第五項又は第六条第一項若しくは第二項に規定する要件を満たしていないとき。


(商標登録の要件)

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。


(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標
三 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
 イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの
四 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標
五 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
十三 削除
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

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