商標登録ができない商標とは-公益に反する商標

商標登録出願をしても商標登録ができない商標として次のものがあります。

自己の商品・役務と、他人の商品・役務とを区別することができないもの(識別力のない商標)
公益に反する商標
他人の商標と紛らわしい商標

今回は、「公益に反する商標」とはどのようなものかを見て行きたいと思います。

公益に反する商標とは

国旗など公益的に使用されている標識(マーク)と紛らわしい商標や需要者の利益を害するおそれのある商標は登録を受けることができません。

具体的には商標法4条1項に記載されている次のものが該当します。

国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標 (1号)
外国、国際機関の紋章、標章等であって経済産業大臣が指定するもの(2号、3号、5号)
白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標等(4号)
国、地方公共団体等を表示する著名な標章と同一又は類似の商標(6号)
公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(7号
博覧会の賞と同一又は類似の商標(9号)
商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(16号)
商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標(18号)

通常の商標登録出願の場合には、「公益に反する商標」に該当して「商標登録できない」とされるケースはあまりないと思いますが、7号16号に該当するケースがまれにありますので注意する必要があります。

国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標 (1号)

国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標

外国、国際機関の紋章、標章等であって経済産業大臣が指定するもの(2号、3号、5号)

二  パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の 紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国 の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標

例えば、

三  国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつ て経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識 されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれら に類似する商品若しくは役務について使用をするもの
ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、そ の国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用 をするもの

例えば、

五  日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国 の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指 定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いら れている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの

例えば、

白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標等(4号)

赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標

例えば、

国、地方公共団体等を表示する著名な標章と同一又は類似の商標(6号)

国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目 的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標 章であつて著名なものと同一又は類似の商標

商標登録出願をする商標が、次のような標章(マーク)と同じか又は類似する場合は商標登録を受けることができません。

■国、地方公共団体若しくはこれらの機関の標章
■ 公益に関する団体であつて営利を目的としないもの標章
  例えば、日本オリンピック委員会   日本貿易振興機構
■ 公益に関する事業であつて営利を目的としないもの標章
  たとえば、 地方公共団体や地方公営企業等が行う水道事業、交通事業、
  ガス事業

  

公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(7号)

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、次のものがあります。

■ 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印 象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音 である場合。
■ 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
■ 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合

例えば、次のものが該当します。
● 「大学」等の文字を含み学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそ れがある場合。
● 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合。
● 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便 乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがある場合。
● 国旗の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合。

審判・訴訟で争われた具体的事案

■指定商品「財務会計処理用コンピュータソフトウェア(記録されたもの)」等について商標「福祉大臣」

『「福祉大臣」の文字よりなる本願商標をその指定商品及び指定役務について使用した場合には、その需要者、取引者に対し、それらが福祉に関する行政分野を統括する大臣の名称であるかのように、あるいは厚生労働大臣と関わりがあるかのように、誤信させるおそれがある』とされました。

■指定商品「建築用又は構築用の非金属鉱物」等について、商標「トトロ」

『アニメ作品の名声に便乗し、または、請求人関連当事者の商品化事業に係る「となりのトトロ」、「トトロ」及び「TOTORO」等の標章の有する顧客吸引力に便乗するもの、すなわち、不正の意図を推認するのに充分といわざるを得ない』とされました。このように他人の名声に便乗するような場合も7号に該当することになります。

■指定商品「紙類、雑誌」等について、商標「福沢諭吉」

『遺族等の承諾を得ることなく本件商標を指定商品について登録することは、著名な死者の名声に便乗し、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、故人の名声・名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある』とされました。このように歴史上の人物についても7号に該当するとされる場合があります。

博覧会の賞と同一又は類似の商標(9号)

政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等 以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国で その政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似 の標章を有する商標

「博覧会」には、博覧会の名称を冠するものに限らず、例えば、見本市、品評会、コレク ション、トレードショー、フェア、メッセ等の他の名称を冠したものも含みます。

商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(16号)

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

「誤認を生ずるおそれ」とは、需要者がその商品の品質等を誤 認する可能性があることをいいます。

「誤認を生ずるおそれ」の有無は、商標が表す商品の品質等と指定商品又は指定役務が関連しているか否か、及び商標が表す商品の品質等と指定商品又は指定役務が有 する品質又は質が異なるか否かにより判断されます。

例えば、

商標「〇〇ポテト」を指定商品「野菜」に使用した場合 、商標が表す商品の品質は「ポテト(じゃがいも)」であり 、指定商品「野菜」とは関連する商品といえます。したがって、「ポテト以外の野菜」例えば「さつまいも」にこの商標を使用すると、需要者は商品がポテト(じゃがいも)だと誤認する恐れがあります。
なお、この場合に指定商品を「ポテト(じゃがいも)」と限定すれば、品質の誤認は生じないことになります(商標法3条第1項第3号該当性の問題が生じる可能性はあります)。

また、商標「〇〇ポテト」を指定商品「自転車」に使用する場合、商標が表す商品の品質である「ポテト(じゃがいも)」 とは関連しない指定商品「自転車」ですので、需要者が「自転車」の品質に誤認を生じることはありません。

他に誤認が生じると考えられる例を 挙げますと

■ 指定商品「ビール」に使用する商標として「○○ウイスキー」を出願した場合
■ 指定商品「菓子」に使用する商標として「パンダアーモンドチョコ」を出願した場合

審判・訴訟で争われた具体的事案

■指定商品 「菓子及びパン,即席菓子のもと」 に使用する商標として 、「3 月 14 日(ホワイトデー)・πの日」

『ホワイトデーの贈り物として菓子類やパ ン類を求めにきた需要者は、本件商標に接した場合、その内容、品質がパイ菓子であって、他 の種類の菓子やパンではないと認識するのが自然である。そうすると、本件商標が、パイ菓子 以外の「菓子及びパン、即席菓子のもと」に使用された場合には、需要者はその商品の内容、 品質がパイ菓子であると誤認するおそれがある 』とされました。

■指定商品 「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」 に使用する商標として 、「Afternoon Tea」

『 アフタヌーンティー店舗 では、 長年にわたり、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称を付し、本願商標を掲載したメニューを使用して紅茶以外のコー ヒー・ジュース等の飲み物を提供してきたものと認められるから、このような飲食物の提供形 態をとることにより、注文者が品質を誤認するような混乱を生じることはなかったものと推認 するのが相当である』として16号に該当しないとされた
これは、この商標を長年使用した 結果、紅茶以外のコー ヒー・ジュース等の飲み物に提供しても、需要者が提供されたコーヒーなどを紅茶と誤認することがないとされたものです。

商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標(18号)

商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標

審査段階では、商品等が「当然に備える特徴」は、原則として、第3条第1項第3号(記述的商標)に該当するかどうかで判断されます。したがって、審査において18号を適用するか否かが問題となるのは、周知性を有する(第3条第2項)と認められる商標についてのみであり、18号が適用されて商標登録が拒絶されるのは、非常に稀なケースしかありません。

参考資料

商標法4条1項

(商標登録を受けることができない商標)

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標三 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの
四 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標
五 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
十三 削除
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

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