商号とは-商標や屋号と機能や保護の違いは

事業や営業あるいは商売を営む者を表象すると考えられる「商号」、「屋号」、「商標」について、それらが発揮する信用や信頼がどのように保護されているのか、具体的に見て行きます。

今回は、「商号」について詳しく見て行きたいと思います。

 

商号とは

商号とは、商人や会社が営業に関して自己を表すために用いる名称です。

人の氏名に相当するもので、商人や会社の正式名称です。

商号は会社の場合は「会社法」で、それ以外の個人事業者等は「商法」で定められており、会社と個人事業者等では、その規定の仕方が若干異なっています。

商人が会社の場合

会社の場合、会社法により、会社の名称を「商号」とする(6条1項)ことが定められていて、その「商号」を登記することが義務付けられています。

また、「商号」には、株式会社、合名会社、合資会社または合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければなりません(6条2項)。

例えば、〇〇〇株式会社、株式会社〇〇〇、合同会社〇〇〇、〇〇〇合同会社のように表記する必要があり、〇〇〇会社や〇〇〇のような会社の種類の省略形は認められません。

商人は一個の営業については一個の商号を有することができますが(商号単一の原則)、会社の場合は数個の事業を営む場合でも商号は一となります。

商人が会社以外の個人事業者等である場合

商人は、商法により、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができ(11条1項)、その「商号」を登記することもできますが(11条2項)、会社と違って登記が義務付けられているわけではありません。

商人が数個の営業を営む場合、会社と違って、営業ごとに商号を選定することができます。


商号選定する場合の制約

商号は商人の名称ですので、人に名前をつけるのと同様に自由につけられるのが原則ですが、以下のような制約があります。

同一住所で同一商号は登記できない

商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、登記できません。(商業登記法27条)

つまり、「全く同じ住所で、全く同じ商号」でなければ、登記できることになります。このため、人の氏名と同様に日本全国に「同じ商号」をもつた商人(会社)が多数存在することになります。

したがって、人を特定するのに住所と氏名でするのと同様に、商人(会社)は住所と商号で特定することになります。

使用する文字に制限がある

商号に使用できる文字は、平成14年にローマ字などが認められ、ほとんど制約がなくなりました。

使用できる文字は次のものです。(商業登記規則50条)

■「ひらがな」「漢字」「カタカナ」
■「ローマ字」 :ABC abc
■「アラビア数字」 :123456789
■「符号」   :&(アンパサンド)’(アポストロフィー),(コンマ).(ピリオド)-(ハイフン)・(中点)

特定の語句や名称は使用できない

次のようなものは、商号に使用できません。

 ■「支店」「支社」「出張所」「事業部」など会社組織の一部を示す文字

 ■金融機関、保険会社、組合などその信用維持を確保すべきものとして法律で定められている一定の業種の文字

 ■公序良俗に反する文字

 ■国などの公的機関を示す文字

 ■特定の法人に限って独占使用が認められている文字


商号の保護

商号の営業的使用に関する保護は、不正競争防止法が充実し、会社法や商法から不正競争防止法へ移行してきています。それでもかなり限定的な保護しか図られていないように思われます。

会社法による保護

会社については、会社法で「何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」(8条1項)とされており、不正の目的をもたない限り、誤認混同する使用をされても差止請求や損害賠償請求ができないため、保護はかなり限定されています。

商法による保護

会社以外の商人についても、商法で「何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。」(12条1項)とされており、不正の目的をもたない限り、誤認混同する使用をされても差止請求や損害賠償請求ができないため、保護はかなり限定されています。

不正競争防止法による保護

近年は不正競争防止法がかなり充実して、「商号」の保護が図られるようになってきています。

不正競争防止法では、「不正の目的」でなくても、需要者の間に広く認識されている商号と同一または類似する商号を使用して、他人の商号と混同させたり、著名な他人の商号と同一もしくは類似した商号を使用するなどの行為は「不正競争」として、差止請求や損害賠償請求が認められています。

しかし、不正競争防止法でも保護されるのは「周知な商号」や「著名な商号」であり、「登録商標」に比べるとまだかなり限定的です。

これらから、判断すると「商号」は、会社や商人を特定する機能に重点が置かれて、事業や営業の識別表示の機能は、「屋号」や「商標」に移行してきているように思われます。

次回は「屋号」について見て行きます。


参考条文

商法

(商号の選定)
第十一条 商人(会社及び外国会社を除く。以下この編において同じ。)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができる。
2 商人は、その商号の登記をすることができる。
(他の商人と誤認させる名称等の使用の禁止)
第十二条 何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

会社法

(商号)
第六条 会社は、その名称を商号とする。
2 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。
3 会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)
第七条 会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
第八条 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

商業登記法

(同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)
第二十七条 商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
(登記事項等)
第二十八条 商号の登記は、営業所ごとにしなければならない。
2 商号の登記において登記すべき事項は、次のとおりとする。
一 商号
二 営業の種類
三 営業所
四 商号使用者の氏名及び住所

商業登記規則

(商号の登記に用いる符号)

第 50条 商号を登記するには,ローマ字その他の符号で法務大臣の指定するものを用いることができる。

2 前項の指定は,告示してしなければならない。

○法務省告示 商業登記規則(昭和39年法務省令第23号)第51条の2第1項(注)(他の省令において準用する場合を含む。)の規定に基づき,商号の登記に用いることができる符号を次のように定め,平成14年11月1日から施行する。
平成14年7月31日            法務大臣 森 山 眞 弓
1 ローマ字
2 アラビヤ数字
3 アンパサンド,アポストロフィー,コンマ,ハイフン,ピリオド及び中点

不正競争防止法

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
①他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又 は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為  (周知商品等表示混同惹起行為)

② 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為(著名商品等表示冒用行為)

コメントを残す